ジェルネイルライトを選ぶ時、36Wと書いてある物より60Wと書いてある方がパワーが強そうだな、と当然思いますよね?
果たして本当にそうでしょうか…?!
ということで、ジェルネイルライトと向き合って10年以上。商品開発担当の中島が、今回ジェルネイルライトの真実に迫ってまいりますので、最後までどうぞお付き合いください(興味のあるところだけ読み飛ばしてくださいね)。
ジェルネイルライトとは
ジェルネイルライトとは、ジェルネイルを固める(硬化させる)ことを目的とした専用のライトです。
ジェルネイルはマニキュアと違い空気乾燥では硬化しないので、必ずこのライトが必要です。
ジェルネイルライトの種類
まず形状で言うと、ドーム、スティック、折りたたみ、と大きく3つくらいに別れます。
ドームタイプ
ジェルネイルライトといえばこれ、ですよね。
ハンド片手を突っ込んで、4~5本まとめて光を照射できます。
ネイルサロンでは片手のジェルを塗っている間に、もう片方は入れっぱなしで照射可能なので、どこに行ってもこの形。セルフでも多くのメーカーが採用しています。
デメリットは場所を取ること。充電タイプもほぼなく、電源ケーブルを繋がないと使えません。
スティックタイプ
対して、コンパクトさを追求したのがこの形。ネイル1本ずつの照射となるので、ネイルサロンではまず採用されていません。
セルフに特化したグランジェでは逆に、ネイル1本ずつ仕上げることを推奨しているので、ブランド立ち上げから一貫してスティックタイプです。
折りたたみタイプ
マウスやスマホのような形が多く、脚が折りたたまれている形状。上2つの間を取ったような特徴で、スティックタイプほどではなくともドームタイプよりはコンパクト。ネイル3~4本まとめて照射できる物もあります。
スティックタイプは基本的にはUSB充電がほとんどですが、こちらは充電できないタイプもあり様々。
尚、10年ほど前は、光源に蛍光管を使ったライトしかありませんでしたが、今ではほとんどLEDしかありません。
ジェルネイルライトの使い方
言うまでもありませんが、爪に塗ったジェルに光を照射します。
光を当てる時間はメーカーによって違いがあるので、取扱説明書などで確認しましょう。
光源に近いほどそのパワー(照度)が強くなり、離れると弱くなります(距離の逆二乗則と言ったりします)。近づけすぎるとジェルが熱くなってしまうことがあるのでお気をつけて!
ジェルが硬化する仕組み
ジェルネイルには「光重合開始剤」という化合物が入っており、それが特定の波長の光に化学反応して硬化が始まります。
ジェルの大部分を構成する最小単位の分子(モノマー)同士が手をつなぎ、大きなひとかたまり(ポリマー)になっていくイメージです(ジェルネイルの原料についてのコラムもよかったらどうぞ)。
ジェルの硬化スピードと光の関係
光重合開始剤にも種類があり、それと相性の良い光の波長も様々。
以前は365nm(ナノメートル)のライトが多かったですが、今では395~405nmがほとんど。尚、400nmまでは紫外線領域なので、日焼けをのリスクを避けたい場合は405nmを選んでください。
ジェルが十分に硬化するためには、光重合開始剤とマッチする光を、一定量照射し続けることが必要で、硬化スピードには「放射照度」が関係し、mW/cm2(ミリワット平方センチメートル)という単位で表されます。この放射照度こそがジェルの硬化に必要なパワーのこと。
そして放射照度 x 時間を「積算照度(積算光量)」と呼び、単位はJ(ジュール)です。
例えばグランジェのピールオフベースジェルは500mJ(ミリジュール)に達すると仮硬化完了。ネイルキュアライト4だと、ジェルから4cmの距離だと約5秒で終了です(少し長めに取説では10秒と案内しています)。
トップジェルの場合は、だいたい1000mJで完全硬化するので同じく4cmの距離から約10秒照射で大丈夫ですが、念のため20秒と案内しています。いずれにしろ業界最速!(のはずです)。
W(ワット)数は光の強さではない?
結論から言うと、W数は光の強さ、パワーではありません。消費電力のことです。
そして、消費電力が高ければ、パワーもそれだけ強い、というわけでもありません。
どういうことでしょうか…?
例えば電気屋さんで電球を選ぶ時、パッケージに60Wとか記載がありますよね?でもよく見てください。60W相当、と書いてあるはずです。
これは、LEDが一般的になる前の白熱電球の頃のなごり、が理由。
白熱電球は消費電力に応じて明るさが変わるので、W数が明るさの基準として定着しました。ところが、エネルギーの変換効率が高く、少ない消費電力でも明るく発光するLEDが登場し、今までの基準があてはまらなくったために、光源全体の明るさを表す「光束」が代わりに表示されるようになりました。単位はlm(ルーメン)。
ただ消費者にもわかりやすいように感覚的に使い慣れたW数を今も使い続けている、というわけです。Panasonicさんのコラムでも詳しく書いていますので、よかったらご参照ください。
ジェルネイルライトも以前は蛍光管が主に使われていたために、白熱電球と同じくW数が光の強さの基準になっていたのは自然な流れでしたが、今ほとんどがLEDなので、その数字を基準にすることにほぼ意味はありません。
つまり、消費電力であるW(ワット)数とジェルの硬化スピードはほぼ関係ない!ということ。
繰り返しになりますが、ジェルの硬化スピードに関係するのは、消費電力ではなく、放射照度です。
ジェルネイルライトの放射照度比較
ということで、いろんなジェルネイルライトで実際に計測してみました。
ネイルキュアライト4を含め、10種類。
光源から約4cmのところに照度計の感光部分を設置し、充電タイプのライトは満充電時と充電切れ前でそれぞれ計測。
計測結果がこちら↓機器に表示の単位μW/c㎡(マイクロワット平方センチメートル)です。
計測中の動画もネイルキュアライト4のみ貼っておきます。
表にまとめたのがこちら↓
ご覧のとおり、消費電力と放射照度が全く相関性がないのがわかります。
グランジェのネイルキュアライト4は、最も少ない消費電力1.8Wに対して、最も高い放射照度100mW/c㎡。満充電でも充電切れ前でも放射照度が変わりません。
E社は消費電力268Wに対して、たった15mW/c㎡のみ。D社とG社はネイルキュアライト4のわずか5%、5mW/c㎡しか放射照度がありません。疑いたくなるような数字ですが、実際のテスト結果です。これでは硬化にかなりの時間がかかってしまいますね。
ちなみに、Dの社とG社2つは別のブランドからそれぞれ購入しましたが全く同じ形状と結果。おそらくラベルは違えど同じ工場で生産されている物なのでしょう(よくあることです)。
放射照度の手軽な測定方法
では、パワー(放射照度)の高いジェルネイルライトを選びたいとなった時、消費者は何を基準に選べば良いのでしょうか?
残念ながら、現状ではその答えはありません。なぜなら、私の知る限りライトのスペックに放射照度を記載しているような(誠実な!)メーカーはグランジェの他に存在しないからです。
もしメーカーに直接問い合わせても、正しく把握すらしていないかもしれません。
もしお手元のライトの放射照度を計測したい、比較したい、となってもその機器は高価で気軽にできるものでもなく…。
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ただし、最大75.47mW/c㎡までしか計測できませんのであしからず(十分ですが)。
メーカーやメディアは放射照度の目安を表示するべき
パワーがすごいと思い込んで買ったライトの硬化スピードが遅くても何が原因かわかりにくく、買った人もそんなものかと思って使っているのかもしれません。
セルフジェルネイルが市場に出て10年以上経ちますが、消費者はいまだに意味のない性能基準に基づいてジェルネイルライトを選んでいる状況です。
メーカーだけでなくメディアでも、ネイリストが監修していかにも専門性を打ち出しているように見える記事でも、ライトの性能について正しく検証されていたり性能比較しているようなところは見当らないように思えます。
消費者からすれば性能を正しく判断できる基準を求めるのは当然のこと。私から見るとライトの品質に?な商品を購入され、うまく使えず挫折した、さらにセルフジェルネイルは諦めた、という話を聞く度にとても残念な気持ちになります。
電球のスペックにlm(ルーメン)が記載されているように、ジェルネイルライトにも消費電力ではなく、放射照度を表示することが必要ではないでしょうか?